インターネットでのアイデンティティをまごつかせて

第二の思春期を終えたオジサンが、何故私は働くのか私の生きている意味はなんなのかについて思春期のように省察するブログです。

『Home Coffee Roasting』の感想ー初心者のためのコーヒー焙煎について

Home Coffee Roasting批評

はじめに

待望の本格派ーオジサン受け間違いなしーなコーヒー焙煎の本が出たということで早速買って読んでみたのですが、一部のごくごく限られたコーヒー界隈で話題になっているように、たしかにちょっと私が焙煎して得た感覚と経験とは異なる感覚で書かれていたので、メモ半分に焙煎について感想を残しておきたい

私のコーヒー焙煎歴

この本は「お家ではじめる自家焙煎珈琲」とサブタイトルにもあるように、これからまたは最近コーヒー豆の焙煎を始めた方々をターゲットにした、コーヒー焙煎初心者のための読本・指南書と宣伝されているので、私のような初心者もターゲットにしているかと思います。
私の焙煎歴といいますと2018年ころから手網焙煎を初め2020年の春にユニオンの手廻しロースターを導入して、おおまかにですが週に1回、年で50回程度、生豆にして20kg程度を焼いている、初心者&アマチュアです。この本がターゲットにしている週末焙煎オジサン、生豆を焙煎してコーヒーの素晴らしさ美味しさへの理解度・解像度を深めていこう!わくわく!というオジサンど真ん中な人間かと思う次第です

それでなんですが、待望のコーヒー自家焙煎読本が出た!と喜び勇んででもないですが楽しみにして成人式の三連休最終日に読み始めたのまではいいのです。
ただ読んでいくと、あれ?ほんとうに??と思う箇所があったり、あとこれバッハのコーヒーについての本とほとんど内容被ってない??なにこれと、どーしても思ってしまう箇所がありました。
この本の恐らくど真ん中ターゲットである私のようなコーヒー焙煎素人でも、なんかおかしーなーと、実体験と経験と異なることが書いてあったので、この本を読んでこれからコーヒー焙煎をしてみようとする方々や、既に初めている方々、そして私自身に対する今までの焙煎で得た経験のまとめとして、この「ホーム・コーヒー・ロースティング」で紹介されているコーヒー焙煎について批判をしてみたいと思います。

結果と言いますと、いやコーヒー焙煎なんてこんな本を読む前に自分で色々と焙煎してみないとわからないよね!というか、マニュアル読んで頭でっかちになる前に自分でまずは焙煎してみよう!ということを叫びたくなるような本でした。
この本の内容を一つの土台とするとしても、色々なアプローチや考え方があるんだなと参考になれば幸いです。
この本よりも大坊さんの『大坊珈琲店のマニュアル』や森光さんの『モカにはじまり』を読んだほうが焙煎初心者にも参考になります。

この本の著者はそりゃーもー日本のコーヒー界隈の重鎮オジサンですが、そんなん私みたいなアマチュア初心者オジサンには関係ないので好きに語ろうと思います。

・初心者が焙煎するコーヒー豆について

この本ではとても親切に初心者向け生豆選びとして、初心者はどこでも簡単に手に入り安価なコモディティコーヒーを選ぶべしとされていますが、私はそうは思いません。
おそらくコモディティコーヒーと想定されているのは、たとえばブラジルならサントスNo2.とかタンザニアAAにコロンビア スプレモあたりでしょう。
たしかにサントス等は安くて入手も容易で美味しいですが、おいしい!と思える焙煎ポイントに関してはとてもシビアです。いや本当に難しいです。
これが、本当に初めて焙煎してみるというのでしたら、どーなるんだろって試しに一番安い豆を使おうということでしたらサントスとか、もっと安い豆でもいいと思うのです。
ですが、この本はどんどん焙煎してコーヒーの理解を深めていこうというコンセプトに書かれているはずなのに、その豆選びは適切なのかと疑問に思います。正直に言えば適切じゃありません。

なぜかというと、これは私の経験や他の自家焙煎されている珈琲屋さんもそう言っているのですが、総じて良いスペシャリティコーヒーの方が焙煎が楽です。
なぜかといいますと、良い豆は美味しいと感じられるストライクゾーンが広いからです。ですので、テキトーというと語弊があるかもしれませんが、ある程度焙煎に余裕と幅が持てます。ちょっと焼きすぎたかな、足りなかったかなという焙煎度合いでも、ちゃんと美味しくまとまった味に出来上がります。*1
この、それなりに美味しくまとまって出来上がるというのは、とても大切なポイントでして、なぜなら初めてや数回程度の焙煎経験の人でも美味しくできた!美味しいって言ってもらえた!という成功体験は、さらに焙煎を続けていく上でとても大切だからです。少なくとも私はそう思います。
一方の安価で入手しやすいたとえばサントスのような豆は美味しくなるポイントがシビアです。このサントスを美味しい!!と思える浅目の焙煎ができたら大したものです。これを安定して美味しく提供できるのは、たとえば盛岡の機屋とか押上のコジロウであったり銀座のランブルとかくらいじゃないでしょうか。
それは言い過ぎかもしれませんが体感的にそれくらい難しいです。私自身の経験だとブラジル サントスやコロンビア・スプレモで浅煎りをここ一年ほど試行錯誤しましたが、一度も満足できる豆は焙煎できませんでした。
そういうわけでコモディティな豆は安価で失敗してもあまり痛くありませんが、初心者の素人が焙煎をーしかも月に1回とか2回とかする程度でしたらオススメできないんじゃないかなーと、この本の内容には疑問を抱いてしまいます。

もし安いコーヒー豆でいいならタンザニアAAとか、難しいけどエチオピアの魅力あふれるエチオピア ハラーとかのほうがいいと思おますが、タンザニアエチオピアほどじゃないですが芳醇香りに特徴的な酸味と苦味があって焼きすぎても苦味がうまい!みたいに喜びがあるので私としては一番オススメする豆です。
まーーこのように、人によって初心者はこの豆のほうがいいんじゃない?とかって百家争鳴になるので先ずは自分が好きな豆から焙煎しはじめるが楽しく、また長続きするんじゃないですかねーと思う次第です。

この豆はこんな焙煎度なんちゃらについて

ここの話は本当に戦争になるのであまり触れたくはない。コーヒーにおいてどれくらいの焙煎度がいいのかという問いかけはかなり嗜好の問題が強いと思う。しかも、この豆の焙煎度合いに最適なのは?みたいな判断は殺し合いにまで発展しかねない熱い問題だ。

最近の流行りなら浅目の焙煎で焼いてやろうというのが多いだろうし、古き良き日本の喫茶店的な深い焙煎が好きな方もいるだろうから、少なくともコーヒーを愛し飲む者としては浅いのがいい深いのがいいのかは一概にいえない。
浅目の美味しいエチオピアもあれば深目の美味しいエチオピアを焼いているコーヒー焙煎もある。どちらも美味しいし、どちらが上というのは客観的には難しいだろう。
また同じ年で同じ産地の同じ農園で同じ精製方法で収穫されたコーヒー豆でも焙煎方法によって味は異なってくる。なので、あとは飲む方としては、嗜好の違いに収束してしまう。どちらが好みかといった個人的な判断はあるだろう。それはいいと思う。

それじゃ焙煎する側はといった場合、やはり本書で書かれている内容は適切ではないと思う。本書では鑑定士の言葉を頼りに、これなら浅目、これなら深目という紹介の仕方をしているが、本当にこの方は焙煎をしているのだろうか美味しい様々なお店のコーヒーを飲んでいるのかと不思議に思った。
たしかに生豆の紹介文は参考になる。だけどその文章からそのコーヒー豆に対する焙煎度合いは決められない。なによりもまず焼いてみないと分からない。本当にはじめて焼いてみる生豆は何度か焙煎してみないと、どこが自分にとって美味しい焙煎度合いなのか分からない。
経験によって、おおよそのあたりをつけるという意味であればある程度は納得できるが、初心者でもある程度焙煎している人は自分なりの焙煎工程があると思うので、まずはそのやり方で試してみるんじゃないかと思う。また本当の初心者であれば、自分が飲んでいて好きな度合いあたりで先ずは試して見ていいんじゃないかと思う。
珈琲焙煎の楽しみの一つとして、コーヒー豆の特性を生かして一番ここが美味しい!と思える自分なりのポイント探求していくのがあると思う。
なので、いきなりこういう豆はこれくらいで焙煎するのが適切でしょうねなんて天からの言葉は、折角の焙煎の楽しみを著しく損なう恐れがあるので、この記述も「お家ではじめる自家焙煎珈琲」というテーマには、残念ながら適切ではないと思う。
そう、コーヒー焙煎の楽しみは、自分が美味しい!と思えるコーヒー豆が光り輝き美味しく煌めくポイントを見つけ出すところにあると私は思うので、概ねこのあたりが適切でしょーねーというのはあるが、アマチュアの我々は別にお金を稼ぐために豆を焙煎するのでもないので、そんなマニュアル言葉は参考程度にして、自分が美味しいと思えるポイントを探求してみてください。その過程で色々な経験があると思われますが、それを楽しめるのが自家焙煎珈琲の魅力なんじゃないでしょうか。だってお店では絶対にできないことですよこれ。

実践 手回しロースター蒸らしの理屈

さあ実践の手回しロースターでの焙煎方法だ!と思ったらここが一番重要なのに、ここが一番酷いんじゃないか。
そもそも蒸らしってなんなのかが分からない。ダンバーがないとできないのか?手回しロースターはダンバーがないから蒸らしができないじゃん。ああ、でも大丈夫なんだ蒸らしなしでも焙煎できるってコーヒーの権威オジサンがお墨付きくれるのね。。。
え?蒸らしって水抜きなの?普通に焙煎していけば水分は抜けていくので水抜きは勝手にしているってこと??手回しロースターでも水抜き現象は生じるので蒸らしもできているってこと?ん??となる。
折角の焙煎の工程の話かと思いきや、焙煎行程の手順と、手回しロースターにはないダンバーの話と、蒸らしというキーワードが数ページの間にもかかわらず複数の意味で用いられていて混乱する。
しかも肝心の焙煎工程については、どこかで読んだことのあるようなWeb上に転がっている内容なので始末が悪い。なんだいこりゃ。指南書といいながら全く詳しくも優しくもない。
こんな感じなので手回しロースターでの焙煎具合や工程についてはもうなにも批判することもないだろう。

一点確実に言えることは焙煎した豆をドライヤーで冷ますのはやめたほうがいいです。やり続けるとチャフが悪いのかドライヤーが火を吹きます。
なんでこんな危ないことを本に書くんでしょうね。不思議です。大変でも団扇で冷ますかコーヒークーラーを買ったほうがいいです。

まとめ

さて、この『Home Coffee Roasting』を読んでしまって居ても立ってもいられなくなり、このような書き殴ったいたずらな批判をすることになってしまったが、本書は自家焙煎珈琲の指南書!というにはやはりお粗末です。
豆に対しての記述も、手網や手回しロースターでの焙煎の工程に関する記述も物足りないばかりか、帯に書いてある「自分だけの味を求めて」という記述に対しても誠実に書かれた内容ではない気がする。筆者の書いたことと発売元がやりたかったイメージとアドバイザー?の旦部氏の意図がうまく噛み合ってない気がする。
ただ、自家焙煎珈琲指南書としてはこの本はあまり参考にしないほうがいい気がするが、一方でコラムや先達の項目で取り上げられているクレイジーなコーヒーオジサン達の紹介部分は刺激的で面白い。コーヒーにうるさいオジサンはかくもコーヒーを愛してイカれている息吹を感じられるのはこの本のとてもいいところである。
なのでコーヒー指南書としてではなく、コーヒー狂いオジサン紹介本としては、こういう形で本として残るのはコーヒー好きとしては食い入るように笑いながら楽しませていただきました。

最後にコーヒー焙煎の指南書としてはこちらの本よりもたとえば大坊さんの『大坊珈琲店のマニュアル』や森光さんの『モカにはじまり』あたりがとても参考になると思います。
こういった本やコーヒーに狂ったオジサンがブログなどで焙煎方法について色々と書かれていて中には珠玉の本当に役立つ記事もありますので、そういった先達の経験を参考に、自分自身の焙煎方法を試行錯誤してみるのが、焙煎の楽しみなんじゃないかなと思います。

*1:※もちろん豆の品種にもよりますよそりゃー。